【混合診療】保険診療とは?自由診療とは?なぜ混合診療は禁止?保険外併用療養費とはどう違う?

Point
  1. 公的医療保険に加入していれば、実際にかかる医療費の1~3割を自己負担するだけで、医療を受けることができます。これが『保険診療』です。
  2. 国が公的医療保険制度の対象にしていない医療を受けようとすると、全額自己負担になります。これが『自由診療』です。
  3. ある病気や症状に対して、保険診療と自由診療を織り交ぜて対応しようとすると、『混合診療』となります。
  4. 混合診療は、日本では一部例外を除いて全面的に禁止されています。
  5. 混合診療を行った場合、一連の治療で過去に受けた保険診療分まで全てさかのぼって全額請求されます。
目次

保険診療ってなに?

基本的に、われわれ日本在住の人が体調を崩して病院を受診し、受ける医療がこれに当たります。

①公的医療保険制度に加入している人が、②病気や症状に対して国が保険適用と定めている医療行為(検査・処置・投薬など)を受ける際は、すべて保険診療となります。

日本は「国民皆保険」の国であり、日本国在住の人は全員、なにかしらの公的医療保険に加入しています。

  • 『国民健康保険』は、自営業、フリーランス、年金受給者などが加入している公的医療保険です。
  • 『健康保険(=社会保険)』は、主に会社員の方が加入している公的医療保険です。

広く知られた病気や、よくある怪我、「大多数の人が」、「一般的に」、病院で検査治療を受けるものに対しては、ほとんどが保険適用となっています。検査・治療・処方いずれにも、すべて国が定めた点数が細かく規定されているため、同じ治療を違う医療機関で受けても、同じ料金(点数)になります。(細かい手技量などの違いは出てきますが、大本となる数は変わりません)

大多数の人が、平等に、正しく証明された医療を受けられるように、というのが保険診療の大原則です。

そのため、新薬・新技術など、また実績や経験が不十分であったり、エビデンスが疑われる医療行為に対しては、保険が適用されていないものが多くなります。

新薬や新技術などの、「新しい治療」については、先進医療といった特別な枠組みで扱われる場合もあります。下の方で詳しく書きます。

自由診療ってなに?

公的医療制度の対象外となる医療のことです。保険が適用されないため、全額が自己負担となります。

保険診療のように、国が定めた点数(=価格)が存在しないため、各医療機関で自由に金額が設定されています。

自由診療になる例
  • 外見の向上を目的とした美容整形手術(火傷や怪我などによる顔面損傷の治療は、保険適用にとなります)
  • レーシックによる視力矯正手術
  • 一部の予防接種
  • 人間ドック
  • 民間療法

なお、会社などで1年に1回受ける「健康診断」は、労働安全衛生規則第44条に『雇用主は健康診断の費用を負担すること』とあり、雇用主負担で受けることができます。

人間ドックで病気が見つかった場合は、その治療に対しては保険診療が可能です。

混合診療ってなに?

ある病気に対する一連の医療の中で、保険診療と自由診療を組み合わせて行うことをいいます。「一連の治療」には、治療過程で生じた副作用に対する治療も含まれます。

保険診療の分は保険で賄い、自由診療の分を患者が自費で支払うことで、費用が混在する状態となります。これは日本では原則、一部を除いて禁止されています。

混合診療になる例
  1. A病院でがん治療をこれまで続けてきたが、インターネットで「新しいがん治療(自由診療)」を行っているB病院があることを知った。
  2. そこで、B病院で「新しいがん治療(自由診療)」を受けたあと、再びA病院に戻って、従来のがん治療を継続することにしたい。

このようなケースは、一つの病気に対して、A病院での保険診療と、B病院での自由診療が混在してしまうことになるため、混合診療の扱いとなり、禁止となります。

禁止というのは、「保険適用することが禁止」となる意味であり、治療を受ける本人の自由意志を妨げるものではありません。

しかし、保険適用が禁止となるため、「これまで受けてきたA病院でのがん治療の費用」までも、過去の分まで全てさかのぼって保険が適用されなかったことになり、過去の金額まで全てが全額自己負担として請求されます

上の例でいうと、仮にB病院で自由診療を受けた後にA病院に戻らず、B病院で治療を続けたとしても、やはり過去にA病院で受けた保険適用分の金額はさかのぼって全額請求されることになります

治療歴が長ければ長いほど、その額はとてつもないこととなり、かなりの富裕層でなければ現実的とは言えません。

なんで混合診療は禁止なの?

先に書いたように、国民皆保険の日本国としての考え方は、『大多数の人が、平等に、正しく証明された医療を受けられるように』というのが大原則です。

混合診療が禁止となる理由については、厚生労働省と日本医師会のサイトからの説明文を引用します。

混合診療を認めてしまった場合……
  • 本来は、保険診療により一定の自己負担額において必要な医療が提供されるにもかかわらず、患者に対して保険外の負担を求めることが一般化。患者の負担が不当に拡大するおそれ。(意訳:ぼったくり病院が保険診療を自由診療として扱い、不当な請求をする可能性がある)
  • 安全性、有効性等が確認されていない医療が保険診療と併せ実施されてしまう。科学的根拠のない特殊な医療の実施を助長するおそれ。(意訳:世界が標準と認め、実績とエビデンスがある医療だけを保険適用とすべき)
  • 混合診療を認めると、経済状況により受けられる医療に差が出てきてしまい、不平等が生まれ、国民皆保険制度の理念に反する。(意訳:金持ちしか受けられない治療が生まれる)

「マトモな治療なら、さっさと全部保険適用にすればいいじゃないか!」という意見も出ますが、保険診療が増えれば増えるほど、国民医療費が増大するというジレンマも出てきます。

例外として保険外の料金徴収が認められているのは、差額ベッド代や新しい高度な医療技術などの、ごく一部のみです。

保険外併用療養費ってなに?

例外的に、保険診療との併用が認められている療養(制度)のことです。

医療技術の進歩や患者のニーズの多様化に対応するため、保険で認められていない療養を受ける場合でも、一定の条件を満たした場合は、保険が適用される部分には保険診療に準じた保険給付が行われるケースがあります。これを「保険外併用療養費」といいます。

混合診療の規制緩和の一部として、2006年に健康保険法を改正して実施されることとなりました。

評価療養

厚生労働省のサイトでは、『保険導入のための評価を行うもの』とあります。つまり「保険適用になるかどうかまだ分からないが、それを見定めるための準備段階」としての扱いです。

  1. 先進医療
  2. 医薬品、医療機器、再生医療等の治験に係る診療
  3. 薬事法承認後で保険収載前の医薬品、医療機器、再生医療等製品の使用
  4. 薬価基準収載医薬品の適応外使用(用法・用量・効能・効果の一部変更の承認申請がなされたもの)
  5. 保険適用医療機器、再生医療等製品の適応外使用(使用目的・効能・効果等の一部変更の承認申請がなされたもの)

小難しい表現が続いているので、噛み砕いて見ていきましょう。

1.先進医療

現時点では健康保険が適用されていないものの、将来的に健康保険等の適用が検討されている医療のことです。

厚生労働大臣が定める指定医療施設に該当する病院においてのみ、通常の保険診療と先進医療の併用(例外的な混合診療)が認められています。

>> 先進医療を実施している医療機関の一覧(厚生労働省)

先進医療のうち、通常の保険診療と共通する診察・検査・投薬・入院費以外の部分は、健康保険が適用されないため、この部分は全額自己負担となります。

2006年に厚生労働省が健康保険法を改正し、保険外併用療養費制度の中に、先進医療制度を導入しました。

2.医薬品、医療機器、再生医療等の治験に係る診療

「治験」というのは、まだ世に出ていない医療のことです。新しい薬や技術が、試験管レベルや動物実験の段階を超えて、実際にヒトに使用した場合のデータを集めている段階のことを指します。

この「治験」で良好なデータや結果が得られれば、やがて一般に出回ることになります。厚生労働省の定める基準を満たした病院でのみ行われています。

3.薬事法承認後で保険収載前の医薬品、医療機器、再生医療等製品の使用

新薬は、原則として「薬事法承認後から60日(遅くとも90日以内)に保険収載する」ことになっています。

この辺りは細かいので省きますが、日本では「薬品としての認可=薬事法承認」の後に、「薬品の値段が決定=保険収載」されることになります。

この空白感の間、「せっかく薬が承認されたのに、使えない」というケースが出てきてしまうため、それをカバーするためのものです。

4.薬価基準収載医薬品の適応外使用

既に販売されている医薬品であっても、新たな情報やデータの集積によって、「実はこの薬はコレにも効く!」といった事実が明らかになる場合もあります。

こういった場合、メーカーは厚労省に対して「この薬の保険適用を、コレにも該当させてほしい」と申請します。それが確認されるまでの期間に該当します。

5.保険適用医療機器、再生医療等製品の適応外使用

上に挙げた薬の適応外使用のような出来事は、薬のみでなく、技術や機器にも同じようなことがありえます。

選定療養

厚生労働省のサイトでは、『保険導入を前提としないもの』とあります。患者のアメニティ(快適性)に関わる部分であり、これらはそもそも医療行為ではないと解釈されます。

  • 特別の療養環境(差額ベッド)
  • 予約診療
  • 時間外診療
  • 200床以上の病院、および特定機能病院等に紹介状なしでかかる初診および再診
  • 制限回数を超える医療行為
  • 180日以上の入院
  • 歯科の金合金等
  • 金属床総義歯
  • 小児齲歯の指導管理

これらは根本的な医療には該当せず、オプションのような位置付けとなります。

患者申出療養

先に挙げた「先進医療」は、医療側が患者側へ提供するケースが大半です。これでは患者個人が新しい治療法を受けたいという思いを実現することができない、という意見から、患者申出療養という制度が創設されました。(2016年4月)

先進医療は医療機関が起点となって先進医療を実施しますが、患者申出療養は患者の申出が起点となり、現時点で保険適用外となっている医療を希望する療養です。

国が審査を行い、適切であると判断されれば、認められることになっています。(既存技術での治療が妥当、と判定される場合も多く、実施件数は多くありません)

国民医療費

2018年(令和元年)の国民医療費は、44兆3895億円だったそうです。医療費削減は政府の急務であり、ジェネリック薬品の導入や湿布の処方上限設定、リフィル処方箋の設定など、色々と制度を動かしてきています。

時代とともに制度は変わっていきます。今後もなるべく正しい理解を持ちましょう。

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この記事を書いた人

地方中核病院の勤務医です。脳神経外科専門医を取得して十年ほど経過しました。
脳卒中や頭部外傷など、脳神経外科領域の一般的診療を主に行っています。

病状説明や学生講義で、どう話したら分かってもらえるかに苦心することが多く、「むずかしいことを、むずかしい言葉で説明しない」ことを目標にして書いています。

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