【オンライン診療は解禁?】非対面診察の現状と制約は?対面診察は今後なくなるのか?患者と医療機関のメリット・デメリットは?

Point
  1. オンライン診療は2022年度改定で、だいぶ条件が緩和されました。
  2. ただし無制限無条件ではなく、「かかりつけ医」が行うという原則があります。(2022年10月時点)
  3. 「かかりつけ医」の定義が曖昧です。
  4. どこで、どこまで、どうやって、という議論が始まった段階です。
  5. パソコンやスマホに詳しくない年配の方々へ、どのように導入するかの課題があります。
目次

オンライン診療ってなに?

病院や診療所を受診して、医者の診察を受けて、必要な検査や処方を受ける……というのが、従来の「対面診察」です。

オンライン診療というのは、パソコンやスマートフォンなどの画面越しに可能な診察を行い、必要な処方を受けるという新しい体制の「非対面診察」です。

遠隔医療のなかには、こういった「オンライン診療」のほかに、処置や治療としての「ロボットアームでの手術」なども含まれてきます。オンライン診療は遠隔医療の一端といえます。

オンライン診療はいつから始まった?

ビデオ通話が当たり前に行えるようになったため、「診察もビデオ通話でできるんじゃないのか」と考えるのは、ごく普通の流れと言えるかもしれません。

2018年度の診療報酬改定で、オンライン診療が保険収載されました。これが始まりです。しかし当時は、『①初診は不可、②3ヵ月に1度の対面診療が必要、③おおむね30分以内に通院が可能』といった厳しい制約がありました。

新型コロナウイルス感染症の流行拡大が後押しに

COVID-19の世界的な感染爆発と、それに伴う外出規制、病院の機能不全に対応するため、2020年4月に、厚生労働省が『時限的・特例的な対応』として、初診のオンライン診療を解禁しました。

その後、2022年1月の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」改定で、『時限的・特例的な対応』が解除され、正式に初診のオンライン診療が可能となりました。上に挙げていた②③の厳しい要件も廃止されました。

オンライン診療の制限(2022年10月時点)

では、無制限・無条件でオンライン診療ができるようになったのか、というと、まだ制限はあります。

  • 初診は、「かかりつけの医師」が行うことが原則
  • そうでない場合、「診療録(カルテ)やお薬手帳などから、医学的情報が十分に把握でき、患者の症状と合わせて医師が可能と判断する」もしくは「診療前相談を行う」必要がある
  • 日本医学会連合が作成した「オンライン診療の初診に適さない症状」などを踏まえて医師が判断し、適さない場合は対面診療を実施する必要がある(2021年6月1日)
  • 初診の場合、麻薬や向精神薬、基礎疾患の情報が把握できていない患者への8日以上の処方は禁止

なんでもかんでも、オンラインで済ませるのはダメですよ、ということになります。実際、医師の立場からみても、オンライン診療では把握しきれない情報がありすぎ、診断はかなり制限されます。

オンライン診療による継続診療可能な疾患/病態

日本医学会連合が、「必要なときに対面診療を行うこと」を前提に、12の診療科ごとの、オンライン診療による継続診療が可能な疾患と病態を提示しています。

ここで気になってしまうのが、「かかりつけ医」の定義です。

初診なのに、かかりつけ医が診る、という言い回しに、首をかしげるのは私だけでしょうか。

「これからかかりつけになる医者」という意味でとらえるしかありませんが、そうなってくると、事前の診療録(カルテ)やお薬手帳が無い場合、どうするの?ということになってきます。

「かかりつけ医」とは?

普段かかっている医療機関、という意味ですが、初診に限定すると定義が難しくなります。はじめて病院にかかる人、これまで通院していなかった人は、かかりつけ医が存在しません。

またここ数年のように、世界的な感染症の流行で、普段の医療機関とは違うところでの対応を余儀なくされるケースが多数発生しました(当院でも多くありました)。平和なときと、緊急事態のときと、かかりつけ医は同じなのでしょうか?

結局、どこにかかればいいんだ!」という声を、今回の感染爆発で嫌というほど見聞きしました。

そのため、「かかりつけ医機能」の定義や役割を明確にするために、2022年7月20日から厚生労働省が、かかりつけ医機能についての議論を開始しています。(※第8次医療計画等に関する検討会)

2022年6月に政府が閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針2022)に、『かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う』と明記されています。

遠隔医療の活用について、議論が始まったばかり

2022年6月7日に政府は、医療・介護分野でのオンライン診療の規制緩和方針について閣議決定しました。医療DXや多業種でのタスクシェア(業務分散)を積極的に進め、「オンライン診療・服薬指導の更なる推進」を掲げています。(※規制改革実施計画)

また厚生労働省は2022年8月17日から、遠隔医療の更なる活用に向けての基本方針をどのように設定するか、議論を開始しています。(※社会保障審議会医療部会)

  1. オンライン診療を受けることができる場所や条件について。公民館や通所介護事業所でのオンライン診療は可能か?
  2. 自動車を活用したオンライン診療について。医療用MaaS(マース)の実践導入は可能か?
  3. デジタルデバイスが苦手な高齢者の医療確保について。

MaaS : Mobility as a Service (自動車を活用した各種サービスのこと)

オンライン診療のメリット・デメリット

メリット・長所

  • 医療機関に通えない患者にとって利点がある
  • 医療資源の少ない地域にとって利点がある
  • 医療従事者の負担軽減になる可能性がある
  • 利便性が向上する

デメリット・課題

  • 対応可能な疾患や病態に限界がある
  • 個人情報やセキュリティの扱いに課題が残る
  • 検査や点滴など、対面が必要な状況になる際、どのように連携すればよいか
  • 診断精度の低下、無診療処方の増加が懸念される

オンライン診療を含めた遠隔医療を普及させるにあたり、国・都道府県・医療機関がそれぞれどこまでの対応を負担することになるのか。診療報酬をどう設定するか、などの課題があります。

オンライン服薬指導

2022年4月から、オンライン診療の適用範囲の拡大にあわせ、オンライン服薬指導の適用範囲も広がりました。(※医薬品医療機器等法:薬機法の一部が改正)

  • 初めて使用する薬でも、オンライン服薬指導が可能になった。
  • 介護施設居住者にもオンライン服薬指導が可能になった。
  • 取り扱える薬剤が大幅に増えた。
  • 処方箋の原本がなくても、コピーで対応が可能になった。
  • 患者がオンライン服薬指導を希望した場合は、処方箋原本が直接薬局に渡されることになった。

こういった規制緩和に足並みをそろえる形で、22年4月の調剤報酬改定で、オンライン服薬指導の実施要件や算定可能な報酬も見直されています。

オンライン診療やオンライン服薬指導に対応するシステムも、続々と開発販売されています。

  • MICIN社のオンライン診療サービス「curon」
  • インテグリティ・ヘルスケア社のオンライン診療・服薬指導システム「YaDoc」
  • メドレー社の「Pharms」
  • 日本調剤株式会社の「NiCOMS」

大手通販会社が薬局業界に参入

2022年9月6日に、アマゾン・ドット・コムが中小薬局と組み、患者がオンラインで服薬指導を受ける新たなプラットフォームをつくる方向と報じられました。(日本経済新聞)

遠隔医療・オンライン診療・オンライン服薬指導の適応拡大とともに、医療や社会の形は今後も大きく変わっていくのかもしれません。

2020年10月時点で、75歳以上の要介護認定率は31.5%、85歳以上の要介護認定率は57.8%というデータが出ているそうです。今後、医療機関へ通えない患者が増えていくことを考えると、いずれ「オンライン診療→amazonでオンライン服薬指導→そのまま薬を配達」などの流れが出てくるのでしょうか。

今後の動向に注目です。

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この記事を書いた人

地方中核病院の勤務医です。脳神経外科専門医を取得して十年ほど経過しました。
脳卒中や頭部外傷など、脳神経外科領域の一般的診療を主に行っています。

病状説明や学生講義で、どう話したら分かってもらえるかに苦心することが多く、「むずかしいことを、むずかしい言葉で説明しない」ことを目標にして書いています。

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