脳膿瘍

Brain Abscess

Key Words
  • 頭のなかに、膿の塊ができる
  • どこかに感染の源があることが多い
  • 虫歯や中耳炎も原因になる
目次

解説

脳に細菌が入り込んで感染し、膿の塊(膿瘍のうよう)をつくる病気です。

虫歯や中耳炎など、近くの場所から感染するケースや、菌血症など全身感染症から脳に感染が及ぶケースがあります。

どんな病気?

膿瘍ができた部分の脳が損傷され、また周囲の脳も炎症を起こして、むくんできます。

膿瘍が破れて脳内に散らばった場合、急激に状態が悪化することがあります。

自然治癒は期待できない病気です。

症状

膿瘍の数・大きさ・場所・周囲の浮腫のつよさ、などにより様々です。

  • 頭痛嘔吐(頭蓋内圧が高くなるため)
  • 運動を司る場所であれば、麻痺
  • 言葉を司る場所であれば、失語症
  • 感覚を司る場所であれば、感覚障害
  • 麻痺はないのに、身体がうまく動かせない(失調)
  • けいれん発作
  • 全身の感染が先にある場合は、それによる発熱などの症状

脳卒中のように、突然発症することはすくないですが、けいれん発作が初発症状になることも珍しくありません。

膿瘍は多発することもよくあり、複数の症状が合わさって出てくることもあります。

診断

頭部単純CTでは、「何かおかしい」ということはわかりますが、単独での確定診断は困難です。

頭部単純MRIでは、DWIで膿瘍内が高信号になるため、役に立ちます。

造影CT・造影MRIでは、「リング状増強域」という、特徴的な見え方をします。

造影検査でリング状増強域を示す代表的な病気:膠芽腫、転移性脳腫瘍、脳膿瘍

多発脳膿瘍のCT/MRI所見
左から:単純CT、造影CT、造影MRI、拡散強調画像

治療法

外科的治療と、内科的治療があります。

外科的治療

  • 穿刺排膿術(ドレナージ)

可能であれば膿抜きの手術を検討します。

しかし脳の深部にあったり、膿瘍が多数ある場合は、手術ができない場合もあります。

手術を行う場合も、基本的には最小限の小さな手術(穿頭・小開頭)での対応となることが多いです。

脳膿瘍の術前MRIと術中所見(脳膿瘍を穿刺吸引しているところ)
脳表に近い場合は、穿刺排膿が可能なこともあります。膿瘍内部には膿が溜まっています。

内科的治療

  • 抗生剤の長期投与

脳は抗生剤が効きにくいため、6~8週間ほどの長期間にわたって、抗生剤を投与し続ける必要があります。

多発脳膿瘍の治療前
治療前の多発脳膿瘍
多発脳膿瘍の長期抗生剤治療後
8週間の抗生剤投与で改善。すべての膿瘍が縮小しています。

医療者向け

通称:あぶせす、のうよう

ドレナージが行えれば、ドレナージを検討します。

ドレナージの有無にかかわらず、抗生剤治療は必ず行います。ドレナージをした場合も、培養結果を待たずに抗生剤治療を開始します。

抗生剤治療は少なくとも6~8週間の長期にわたり、膿瘍が消失するまでは継続します。

脳内には脳血液関門(BBB)があるため、抗生剤が効きにくいという特徴があります。

けいれん発作を起こした経過がある場合は、抗てんかん薬の投与も行います。

齲歯(虫歯)や歯周炎、歯科治療後から脳膿瘍を合併することも珍しくないため、口腔ケアも重要な治療と予防になります。

もう少し詳しい情報

  • BBBを考慮して、髄液移行性がよく、かつ広域でカバーできるよう、『セフトリアキソン(CTRX)+メトロニダゾール(MNZ)』が基本治療となっています。

培養結果や経過によっては、セフトリアキソンからメロペネム(MEPM)に切り替わる場合などもあります。

  • メトロニダゾールの長期投与により、メトロニダゾール脳症を合併することがあるため、注意が必要です。(*1)

  • 感染源となる病巣や、感染性心内膜炎などがある場合は、速やかに原疾患の治療が必要です。(*2)

参考

  1. Casperら : J Neurol 267 : 1, 2020
  2. Matthijsら : N Eng J Med 371 : 447, 2014
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この記事を書いた人

地方中核病院の勤務医です。脳神経外科専門医を取得して十年ほど経過しました。
脳卒中や頭部外傷など、脳神経外科領域の一般的診療を主に行っています。

病状説明や学生講義で、どう話したら分かってもらえるかに苦心することが多く、「むずかしいことを、むずかしい言葉で説明しない」ことを目標にして書いています。

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