【ガンマ計算】大人と子供で同じ量の薬を使ってよい?医師の言うミリ(ミリグラム)と、看護師の受け取るミリ(ミリリットル)の違いとは?

Point
  1. 体重100kgの人と、体重50kgの人に、同じ量や速度で薬を使用してもよいでしょうか?という考え方です。
  2. 医師のよく使うミリはミリグラム(mg)、看護師のよく使うミリはミリリットル(mL)です。
  3. 体重100kgの人の1ガンマと、体重50kgの人の1ガンマは、使用する薬の量が違います。
目次

ガンマ計算

教科書やネットでガンマ計算を調べると、文章が多くて、頭の痛くなる記号が出てきて、やめたくなります。

理屈を先に並べるとしんどいので、一歩ずつ実際の現場のつもりで、すすめてみましょう。

設定

あなたは救急外来に配属されました。さっそく救急車で、2人が搬入されてきました。

一人はとても大柄で、推定体重100kg。もう一人は小柄で、推定体重50kg。

ふたりともショックバイタルで、血圧を上げないと危険そうです。

よし、ドパミンを使って血圧を上げよう!

はい、わかりました。どのくらいから流しますか?

あわ10だ!

どちらの方が10ですか?

ふたりとも同じでいいだろ!

え、この体格差なのに!?

100kg vs 50kg ・・・投与量は同じでよい?

上の医者はポンコツです。(まったく同じ全身状態、という設定にも無理がありますが)

体重や体格があまりにも違う人に、同じだけの量を投与しても、効果は当然違ってくるはずです。

そこで、「体重や体格の違う人たちに、同じくらいの薬の効かせ方をするには、どうすればよいか?

という疑問を解消するために、ガンマという考え方があります。

薬の効果を決める、3つの要素とは?

薬の効き目を左右するのは、以下の要素です。

  1. 投与する薬の濃度(1mL中に、どのくらいの薬が含まれているか)
  2. 投与する薬の総量(どのくらいの薬が、身体の中に入ったか)
  3. 投与した薬の血中濃度と代謝速度(体重や体質によるもの=個体差)

1.投与する薬の濃度(mg/mL)

使う薬の濃さ、によって、効き目が違ってくるのは、イメージしやすいと思います。

  • 1mL(=1cc)中に、何mgが含まれているかを表すのが、mg/mL。(みりぐらむ ぱー みりりっとる)
  • 1mL(=1cc)中に、何ugが含まれているかを表すのが、μg/mL。(まいくろぐらむ ぱー みりりっとる)

元々使いやすい濃度で、最初から製品として販売されているものもあります。医者がオーダーして濃さ(組成)を決めることもあります。

2.投与する薬の総量(mg/hr)

薬が体に、どのくらい入ったかによって、効き目が違ってくるのも、イメージしやすいと思います。

  • 1時間あたり、薬がどれだけ入ったかを表すのが、mg/hr。(みりぐらむ ぱー あうあ)
  • 1時間あたり、溶液がどれだけ入ったかを表すのが、mL/hr。(みりりっとる ぱー あうあ)

ここで困るのが、以下のポイントです。オーダーを出す側(ドクター)と、オーダーを受ける側(ナース)とで、欲しい表現がちがうのです。

  • ドクターは適正量を計算するので、質(グラム)を基準にして指示を出したい。(mg/hr で管理したい)
  • ナースは実際に投与した量で管理したいので、量(リットル)を基準にして指示をもらいたい。(mL/hr で管理したい)

ときどきインシデント・アクシデントになる、「ミリ」の両者の違いに注意が必要です。

フロセミド20ミリ入れようか(20ミリグラムね)

はい!フロセミド20ミリ入ります!(20ミリリットルですね)

フロセミド(20mg/2mL/A)を10本切って、200mg/20mLをシリンジに詰めだすと、あわてて……

ちがうちがう!入れるのは2ミリリットルだよ!それじゃ10倍量になっちゃう!!

こういう事例が本当にあるので、注意が必要です。

CHECK
  • ドクター側は、なるべくmLに換算した指示を出すようにすると間違いが減ります。
  • ナース側は、単位が流量(ミリリットル)で出されているものなのか、注意しましょう。

このあたり、とてもややこしく、嫌になってきますが、一つずつ整理していきますので、もう少しお付き合いください。

3.投与した薬の血中濃度と代謝速度(体重kg)

これは医療側から、コントロールすることができない要素です。

これらを正確に、厳密に把握することは難しいですが、体格や体重によって効き目が違いそう、というのはイメージしやすいところかと思います。

そのため、「体重1kgあたり、どのくらいの薬(mg)が入っているか」という考え方を加えることで、体重による血中濃度の差を反映しようとします。

体重1kgあたり、どのくらいの薬(mg)が入っているかを表すのが、mg/kg。(みりぐらむ ぱー きろぐらむ)

この3つの要素を、どうまとめて表現すればよい?

ガンマ計算を理解する上で、必要なポイントは、上に挙がった要素のうち2つだけです。

  • 1時間あたり、薬がどれだけ入ったかを表すのが、mg/hr。
  • 体重1kgあたり、どのくらいの薬(mg)が入っているかを表すのが、mg/kg。

これをひとつにまとめると、次のようになります。

  • mg/kg/hr
  • 1時間あたり、体重1kgあたりに対して、薬がどれだけ入ったかを表します。

だいぶ、ガンマ計算の式の形に近づいてきました。(質量/体重/時間)という表現になっています。(ガンマ:μg/kg/min)

mgとμg、hr(時間)とmin(分)、の違いはありますが、「質量(重さ)/体重/時間」という表現は同じです。

なぜガンマがμg/kg/minなのかというと、そういう決まりだからです 。お薬の用法用量に、「この薬は何ガンマで使用しましょう」という風に書かれているからです。

その単位にすると、0.00001ガンマとか、1000000ガンマとかにならず、比較的扱いやすい3とか5とか10とかの数字に収まるというだけの話です。

実物の薬に当てはめて、やってみましょう。

理屈の話だけだと理解しづらいので、実際の薬を使ってみましょう。

例として、ドパミン塩酸塩という昇圧薬を扱ってみます。商品名だと、イノバン、プレドパ、カタボンなどの名前が付いています。DOAと呼ばれるお薬です。

ドパミン塩酸塩(600mg/200mL/袋)

キット製剤だと、最初から扱いやすい濃度で販売されています。「一袋あたり、200mLで、中には600mgのドパミン塩酸塩が入っていますよ」という意味になります。

この薬を、1ガンマの量で使用したいとします。

ガンマ = μg/kg/min

薬の効き目を左右するのは、以下の3つの要素でした。

  1. 投与する薬の濃度(1mL中に、どのくらいの薬が含まれているか)
  2. 投与する薬の総量(どのくらいの薬が、身体の中に入ったか)
  3. 投与した薬の血中濃度と代謝速度(体重や体質によるもの=個体差)

1.投与する薬の濃度

上の薬をそのまま使うので、そのまま当てはめます。

600mg / 200mL

2.投与する薬の総量

1ガンマの量で使用したいので、目的の量は1ガンマに、そのまま当てはめます。

1 ガンマ = 1 μg / kg / min

「体重1kgあたり、1分につき、1μg」という意味になります。

3.投与した薬の血中濃度と代謝速度(体重や体質によるもの=個体差)

個体差を正確に反映することは難しいですが、一つの目安として、体重で補正することになります。

体重50kgの場合

1ガンマ = 50 μg/min

「1分につき、50μg」という意味になります。1kgで1分1μgなら、50kgだと1分50μgです。

体重100kgの場合

1ガンマ = 100μg/min

「1分につき、100μg」という意味になります。1kgで1分1μgなら、100kgだと1分100μgです。

しかし、このままだと、指示受けしてもよくわかりませんので、もう少し馴染みのある単位に変えていきます。シリンジポンプは、時速(/hr)が基本単位なので、時速に変換します。

4.見慣れた、馴染みのある単位に変換

1時間(hr)は60分(min)なので、まずはこれを変換します。

体重50kgの場合

1ガンマ = 50 μg/min = 50 x 60 μg/hr = 3000 μg/hr

「1時間につき、3000μg」という意味になります。1分50μgなら、1時間(60分)だと3000μgです。

体重100kgの場合

1ガンマ = 100 μg/min = 100 x 60 μg/hr = 6000 μg/hr

「1時間につき、6000μg」という意味になります。1分100μgなら、1時間(60分)だと6000μgです。

桁数が大きくなってきて見づらいので、馴染みのあるmgに変えてしまいましょう。

1mg(ミリグラム)は1000μg(マイクログラム)なので、これも変換します。

体重50kgの場合

1ガンマ = 3000 μg/hr = 3mg/hr

「1時間につき、3mg」という意味になります。

体重100kgの場合

1ガンマ = 6000 μg/hr = 6mg/hr

「1時間につき、6000μg」という意味になります。1分100μgなら、1時間(60分)だと6000μgです。

だいぶ、見慣れた感じになってきました。あと一息です。

5.mg(ミリグラム)を、mL(ミリリットル)に変換

シリンジポンプの設定は、「mL/hr」です。指示を出す際は、mLに置き換えた出し方をしないといけません。

これは、使う薬の濃度が分かっていれば、置き換えられます。

ドパミン塩酸塩(600mg/200mL/袋)

この薬を使うことにしていますので、これは言い換えると、こうなります。

600mg/200mL = 3mg/1mL = 3mg/mL (1mL中に3mg入っている)

単位を書くとき、1は省いて書くのがお約束です。ですから、この薬の濃度は、「3mg/mL」です。

これを先程までの、50kgと100kgの例に当てはめてみましょう。

体重50kgの場合
  • 1ガンマ = 3mg/hr (1時間に3mg)
  • 3mg/mL (1mL中に3mg)

1時間に3mg入れる。3mgは1mLである。つまり、1時間に1mL入れれば、3mg入ることになる。

  • 1ガンマ = 3mg/hr = 1mL/hr
体重100kgの場合
  • 1ガンマ = 6mg/hr (1時間に6mg)
  • 3mg/mL (1mL中に3mg)

1時間に6mg入れる。3mgは1mLである。つまり、6mgは2mLである。1時間に2mL入れれば、6mg入ることになる。

  • 1ガンマ = 6mg/hr = 2mL/hr

これで完成です。

6.実際のオーダー

ドパミン塩酸塩(600mg/200mL/袋)を、1ガンマで使いたいとき、実際の指示はこうなります。

いま使うドパミンの濃度は3mg/mL、1ガンマだと体重50kgでちょうど3mg/hrになるから・・・

1ガンマでドパミンを開始するね。
50kgの人には1mL/hrで、100kgの人には2mL/hrで流してね。

はい、わかりました

これが正解です。

ガンマ計算とは、『体格の違う人たちに、なるべく同じくらいの薬の効き具合にする』ことを目的とした計算式です。

同じ薬でも、人によって、1ガンマの量は変わってきます

昇圧剤や静脈麻酔薬などの劇薬は、ザル勘定で使うわけにはいかないため、ガンマを用いた調節が必要です。

さいごに

上の例で、3mg/hrが、計算しやすいようにピッタリとはまったように、出回っている薬剤は、はじめから扱いやすく丁度よい濃度で調剤されて販売されているものも多いです。

しかし、ドクターが自分で組成して(濃度を決めて)オーダーを出すことも多いため、使っている薬剤の濃度がいくつなのか(=何投組成なのか)は、しっかりと把握しておく必要があります。

よく使うドクター組成
  • ノルアドレナリン3A + 生食47mL = 3mg/50mL
  • ノルアドレナリン5A + 生食45mL = 5mg/50mL

上2つは似ていますが、濃度が倍近く違うので、同じ速さで流しても効き目(ガンマ)がだいぶ変わってきます。

応用編

現場で理屈を一つずつ追いかけるのは大変!時間もない!

という方の場合は、以下の簡略式で覚えてしまうとよいでしょう。

簡略式

1ガンマ(γ) = 1 μg/kg/min

分(min)を時間(hr)に変更すると、

1γ = 60 μg/kg/hr

マイクログラム(μg)をミリグラム(mg)に変更すると、

1γ = 0.06 mg/kg/hr

体重(kg)を並べ替えてやると、

1γ = kg × 0.06 mg/hr

となります。つまり、

1γ = 体重kg×0.06 mg/hr

ただしこれは、mg/hrです。計算はしやすいですが、指示を出す際はmL/hrにすべきなので、濃度(mg/mL)で補正する必要があります。mg/hrを濃度で割れば、流量mL/hrになります。

理屈抜きで、さっさと実際の流量を知りたい!

ガンマ変換式
  • 1γ = 体重(kg) × 0.06 ÷ 濃度(mg/mL)

※体重がkg、濃度がmg/mLであることは確認してくださいね。

ときどき理屈で、裏付けをしておくと、やがて自然と身に付いてきます。

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この記事を書いた人

地方中核病院の勤務医です。脳神経外科専門医を取得して十年ほど経過しました。
脳卒中や頭部外傷など、脳神経外科領域の一般的診療を主に行っています。

病状説明や学生講義で、どう話したら分かってもらえるかに苦心することが多く、「むずかしいことを、むずかしい言葉で説明しない」ことを目標にして書いています。

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