Trigeminal Neuralgia 顔半分の電撃痛!マスクが当たるだけでもビリッとくる痛み!三叉神経痛について専門医が解説

Trigeminal Neuralgia 顔半分の電撃痛!マスクが当たるだけでもビリッとくる痛み!三叉神経痛について専門医が解説

Key Words
  • 世間で言うところの、「顔面神経痛」
  • 顔面の感覚神経を、頭の中の何かが圧迫していることが原因

この記事は、三叉神経痛について知りたい一般の方向けに書かれています。後半に、医療従事者向けの少し詳しい内容が書かれています。

この記事は、こんな方向け!
  • 片方のほっぺたに、ときどきビリッとくるような鋭い痛みを感じる
  • マスクのへりが当たるだけで痛い、歯磨きが辛くてできない
  • 虫歯の治療のときのような、電撃のような痛みが頻発する
目次

三叉神経痛の症状と経過

片方の顔面に、数秒から2分程度の「びりっ」という電撃痛が起き、それが繰り返される病気です。

症状がつよくなると、日常生活に支障が出るほどの痛みになります。

どんな病気?

世間でよく言われるところの、「顔面神経痛」です。

「顔面神経」は顔面の感覚には関与しないので、医学的に「顔面神経痛」という用語はありません。

顔面の片側で、鋭い痛みが出たり引っ込んだりします。

ひどくなると食事や歯磨き、会話も痛みで困難になることがあります。

顔面の感覚を司る神経(三叉神経)を、頭の中の何かが圧迫していることが原因です。(*1)

圧迫している原因の多くは「血管」ですが、腫瘍が原因のことも時々あります。

症状(こんな症状があったら、疑う!)

  • 額、頬、顎のいずれか、もしくはこれらを跨いで、片方に鋭い痛み(電撃痛)が起こります。
  • 痛みは数秒~2分程度ですが、繰り返し起こります。
  • 前触れなく起こりますが、痛い場所に触れると、痛みが誘発されやすいです。
  • 痛みのある期間と、痛みのない期間を繰り返すこともあると言われています。

ひどくなると、食事・歯磨き・髭剃り・会話などでも、痛みが誘発されてきます。

診断方法(どうやって見つける?)

  1. 痛みが「三叉神経痛」であるかどうかの判断は、病歴や症状の聴取(問診)が重要です。
  2. 痛みの感じ方、タイミング、状況、どのくらいの期間か、などを診断基準に照らして判断します。
  3. 三叉神経痛であると疑った場合は、頭部MRIで三叉神経の周囲を入念に観察すれば、原因が解明できることがあります。

通常のMRI撮影ではなく、三叉神経の周囲に注目して、特殊な条件で撮影しないと、わからないことが多いです。(問診から、疑ってかかり、特殊なオーダーをする必要があります)

治療方法(根本的な治療には、手術が必要)

典型的な三叉神経痛に対する治療法は、①薬物治療、②ブロック治療、③放射線治療、④手術、の4通りがあります。

薬物治療

カルバマゼピン、という薬が第一選択薬です。他にも神経痛のお薬がいくつかありますが、効果はまちまちです。

他にも候補となる薬はいくつかありますが、めまいやふらつきなど、副作用の出やすいものが多く、効果と副作用を天秤にかけて落としどころを探る必要があります。

ブロック治療

痛みの原因となる感覚神経を、薬や熱によって遮断する方法です。ペインクリニックで行われます。

通常は、薬物治療で十分な効果がなく、合併症などが原因で手術を受けられない方が適応となります。

定位放射線治療

ガンマナイフ治療が保険適応となっています。

治療効果が出てくるまでに時間がかかること、放射線被曝が大きくなること、再燃の可能性があること、などのリスクがあります。

神経血管減圧術(MVD)

三叉神経痛の根治が期待できる手術です。全身麻酔が必要となります。

手術により、約81%以上は症状が改善するという統計があります。(*2)

三叉神経痛の術前画像と術中顕微鏡画像。三叉神経を動脈が圧迫していることが痛みの原因。
三叉神経痛に対する神経血管減圧術。術前MRI画像と術中の顕微鏡画像(著者執刀症例より)

医療者向け(看護師さん、コメディカルさん向け)

通称:さんさしんけい、ごばん

三叉神経が、第5脳神経(Ⅴth nerve)であるため、5番とも呼ばれます。

三叉神経痛単独で、生命にかかわることはありません。そのため通常は外来での対応となり、入院する場合は何かしらの治療(主に手術)が予定されている場合になります。

痛みのため食事が摂れず、衰弱が進んで入院するケースも、まれにあります。

神経血管減圧術は全身麻酔での開頭術ですが、傷は耳の後ろに7~10cm程度で済むことが多いです。通常はドレーンも入ってきません。

ただし術中に、脳ベラで小脳を引くことになるため、めまいや嘔気などの小脳症状を術後に起こす場合があります。

メトクロピラミドなどの制吐剤と、点滴で対応しますが、手術に伴う脳損傷がなければ、徐々に落ち着いてきます。

術中操作の影響で、術後に耳閉感(耳に水が入ったような感覚)を訴える方もいますが、数日~1週間ほどで改善する場合がほとんどです。

開頭時に乳突蜂巣を開放してしまった場合、水などの液体が乳突蜂巣から中耳まで入りこんでしまうために起こる症状です。

もう少し詳しい解説(研修医向け)

  • 三叉神経の第2枝(頬)、第3枝(下顎)から生じることが多く、「歯が痛い」として、はじめは歯科へ通院されている方も多くいます。
  • 統計的には男女比1:2で女性に多く、50歳以降で加齢とともに発症率が増加するされています。半面、20代までの発症は少ないというデータがあります。(*3)

  • 国際頭痛分類第3版(ICHD-3)による診断基準を指標として用います。
  • 帯状疱疹後神経痛、副鼻腔炎、齲歯(虫歯)、片頭痛などが鑑別疾患となります。

  • 血管の圧迫が原因である「典型的」三叉神経痛は、顔面けいれんと同じく、神経血管圧迫症候群に属します。
  • 三叉神経を圧迫する原因の多くは血管ですが、15%ほどで腫瘍や多発性硬化症が原因であるとも言われています。(*4)
  • 顔面けいれんとは異なり、Root Entry Zone (REZ)よりも遠位の圧迫でも生じると言われています。

参考

  1. Barker IIら : N Eng J Med 334 : 1077, 1996
  2. Zagzoogら : J Neurosurg 7 : 1, 2018
  3. Katusicら : Ann Neurol 27 : 89, 1990
  4. Cruccuら : Neurology 87 : 220, 2016
この記事のまとめ
  • 三叉神経痛は、顔面の感覚を支配する三叉神経が圧迫されることによって生じる病気
  • 鋭く、びりっとくるような電撃痛が特徴
  • 内服、ブロック注射、放射線治療、手術などの治療法があるが、根治治療は手術(MVD)
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この記事を書いた人

地方中核病院の勤務医です。脳神経外科専門医を取得して十年ほど経過しました。
脳卒中や頭部外傷など、脳神経外科領域の一般的診療を主に行っています。

病状説明や学生講義で、どう話したら分かってもらえるかに苦心することが多く、「むずかしいことを、むずかしい言葉で説明しない」ことを目標にして書いています。

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