Hydrocephalus
- 非交通性と交通性がある
- 手術が必要
- 出血性脳卒中と合併しやすい
- 治療可能な認知症(treatable dementia)
解説
髄液が頭蓋内で溜まり、脳が圧迫される病気です。
ゆっくり進むタイプと、急激に進むタイプがあります。
手術が必要になる場合が多い病気です。
どんな病気?
人間のアタマの中は、脳と、脳を浮かべている水(髄液)で満たされています。
髄液は一日のうちに産生と吸収を繰り返しながら、流水プールのように、脳を浮かべながら脳の周りをぐるぐると流れています。通常は、産生量と吸収量が同じなので、プラスマイナスゼロで、髄液は頭蓋内を(正確には脊髄まで)循環します。
髄液が産生される場所と、吸収される場所は決まっています。そのため、以下のような状態(病気)になった場合、髄液の産生と吸収のバランスが崩れます。
- 髄液の通り道が詰まってしまった(非交通性水頭症)
- 髄液の吸収量が悪くなってしまった(交通性水頭症)
こうなると、髄液がアタマの中でだぶついてくることになり、余分な髄液が溜まりこんで脳を徐々に圧迫するようになります。これが水頭症です。
症状
急激に進むタイプ(非交通性)と、ゆっくり進むタイプ(交通性)とで、症状の程度と経過が違ってきます。
非交通性水頭症(≒閉塞性水頭症)
交通性水頭症(≒正常圧水頭症)
- くも膜下出血の亜急性期~慢性期や、頭部手術の後に、起こることがあります。(続発性)
- 高齢者では、特に原因なく起こるケースもあります。(特発性)
- 傾眠、認知機能低下、意欲低下など、いわゆる「認知症」のような症状を、週~月単位の経過で起こしてくるのが特徴です。
- 歩行障害、認知障害、排尿障害が三徴といわれます。(*1)
- 治療可能な「治る認知症(treatable dementia)、偽認知症(pseudo dementia)」のひとつ、と言われています。
- 脳卒中のような、麻痺や失語などの症状は起こしません。
- 交通性水頭症だけで、生命にかかわることはあまりありません。(意識障害の結果として、肺炎や衰弱などを合併して状態が悪くなる可能性はあります)
診断
頭部CTで、ほぼ診断が可能です。
交通性水頭症疑いで判断が難しい場合、tap-testという検査を行うことがあります。
治療
非交通性か、交通性かで、対応が変わってきます。また続発性か、特発性かによっても、治療の選択肢が変わってきます。
非交通性水頭症(≒閉塞性水頭症)
- 持続脳室ドレナージ術(CVD)
だぶついている髄液を、頭の外に逃がしてやるための管を入れる手術です。
髄液の通り道が閉塞している原因が血栓の場合は、時間経過で溶けて再開通するため、それまでの期間を緊急回避できればよい、と考えることができます。
閉塞の原因が脳腫瘍など、自然に回復できない場合は、閉塞の原因となっている病気の治療を行うか、もしくはシャント手術や第三脳室開窓術などを選択する必要があります。
交通性水頭症(≒正常圧水頭症)
- シャント手術(短絡術)
だぶついている髄液を、頭の外に逃がしてやるための管を植え込む手術です。
V-Pシャント、L-Pシャント、V-Aシャントなどの種類があり、病態により使い分けます。
看護師さん向け
通称:はいどろ、ひどろ
脳室穿破している脳出血の急性期に、突然意識レベルが低下した場合、非交通性水頭症の合併を疑う必要があります。
持続脳室ドレナージ(CVD)
局所麻酔の手術です。1時間もかからずに終了します。
通常は前頭部の左右どちらか、もしくは両方にドレーンが入ってきます。
ドレーンの先端は脳室内にあり、その先が体外の圧回路に繋がっています。
ベッドサイドの回路で圧設定をして、頭蓋内との圧較差によって、過剰な髄液がドレーンから対外に逃がされる仕組みです。
- ゼロ点の確認(外耳孔の高さに合わせます)
- クランプの開閉を忘れない
- フィルターを汚染しない(体転や移送時のブロックを忘れると、髄液でフィルターが汚れます)
- 感染対策
- 抜去事故防止
成人の髄液産生量は20mL/時、500mL/日、とされています。
脳室とくも膜下腔の髄液の全量が、150mL程度です。(つまり、1日3回入れ替わっています)
- ドレーンからの排液量(いくつ未満/以上で、Dr.callが必要かどうか)
- ドレーンの色(真っ赤なものになっていないか、混濁していないか)
- 液面拍動の有無(閉塞すると拍動が無くなります)
シャント手術(V-P、L-P、V-A)
シャント手術の場合、CVDと違って患者さんのなかで髄液循環の回路ができているため、ドレーン管理は不要です。
V-P、L-Pのどちらかが選択されるのが一般的です。
シャントバルブという器械が、どこに植え込まれているかは、確認が必要です。
バルブがMRI対応型であるかどうかは、器機によって異なるため、確認が必要です。
シャント手術には、必ずシャントカードという記録が付属しているので、かならず担当医に記載してもらったうえ、退院時に患者さんへお渡ししてください。
神経内視鏡手術
- 第三脳室開窓術(ETV)
現状では、非交通性水頭症に対する手術です。
神経内視鏡に習熟した医師と装備が必要なため、行える医療機関が限られます。
もう少し詳しい解説
- 持続脳室ドレナージ(CVD)は、長期管理には向かないため、非交通性水頭症に対する緊急避難の位置付けとなります。
- くも膜下出血後は、くも膜下腔の癒着による髄液の通過障害と吸収障害を起こし、交通性水頭症が発生しやすいと言われています。(*3)
- L-Pシャントは、交通性水頭症にのみ適応があります。非交通性水頭症には行えません。
- V-Aシャントが第一選択となるのは、現在では稀です。
- シャント手術の場合、「どのくらいの髄液をアタマの外に逃がすか(=アタマの中の圧が、一定以上に上がらないようにする)」という設定は、シャントバルブという器機で行うことができます。
- 通常、シャントバルブは磁力で適宜設定可能であり、体表から、プログラマーと呼ばれる特殊な磁石の操作で、圧の変更をすることができます。
- 逆に言うと、磁力で圧が変わることがあるため、MRI撮影によって圧が意図せず変更されてしまう場合もあります。
- チューブのどこかが閉塞してしまった場合は、再手術が必要になることがあります。
- 髄液が流れすぎてしまった場合、overdrainageにより低髄液圧症候群を生じ、慢性硬膜下血腫を合併することがあります。(特殊なケースです)
参考
- 日本正常圧水頭症学会2020
- Kuboら : Dement Geriatr Cogn Disord 25 : 37, 2008
- Hallaertら : J Neurosurg Pediatr 9 : 169, 2012
コメント