急性硬膜外血腫

Acute EpiDural Hematoma (AEDH)

Key Words
  • 喋っていた人が死亡する(talk and deterioraate : T&D)
  • 開頭血腫除去術
  • 凸レンズ状の血腫
  • 意識清明期(lucid interval)
目次

解説

頭をつよくぶつけたことにより、頭の中で出血が起きている状態です。

急性血腫硬膜(上)に溜まっていき、脳を圧迫します。

頭蓋骨骨折と一緒に起こることが多いです。

重症の場合は、緊急手術が必要です。

原因は、交通事故や転落外傷が大半です。

左急性硬膜外血腫(Lt.AEDH)の単純CT画像
【左急性硬膜外血腫】向かって右側(頭の中で左側)で、凸レンズ状の急性血腫が白く見えています。

どんな病気?

病気ではなく、ケガ(頭部外傷)です。

急激な出血(血腫)による脳の圧迫が急速に進むため、突然の変化には脳が耐えられません。(急性硬膜下血腫と似ています)

重症の場合は、命にかかわるため、緊急手術が必要となります。

軽症の場合は、自然治癒することもあります。

症状

  • 頭痛、嘔吐(頭蓋内の圧が高くなり、脳にストレスがかかるため)
  • 意識障害、片麻痺、けいれん発作(脳が圧迫され、機能障害を起こすため)
  • 昏睡、呼吸停止(脳ヘルニアによる生命危機)

診断

頭部CTで確定診断が可能です。凸レンズ状の白い血腫が典型的です。

治療

  • 開頭血腫除去術

急性血腫は硬く固形のため、穿頭では対応できず、開頭して取り除くしかありません。

救命目的で行う場合は、大開頭が必要になるケースが多くなります。

術前の状態(重症度)によって、予後(回復度)は大きく変わってきます。(*1)

病院到着時の状態によっては、手術不可能なケースもあります。

左急性硬膜外血腫の頭部単純CT画像
術前、傾眠がちで右麻痺を生じていました
左急性硬膜外血腫術後の頭部単純CT画像
術後に症状は回復しました

看護師さん向け

通称:えぴどら

急激な経過をたどる(急変する)可能性があり、「喋っていた人が死亡する(=talk and deteriorate / T&D)」のひとつです。


軽症の場合は、保存的治療(点滴)で経過をみることもあります。

重症の場合は、手術までの間に脳ヘルニアからの二次性脳梗塞を回避できているかが、大きく予後を分けます。

そのため入室までの時間稼ぎとして、マンニトールを全開で投与したり、病室で穿頭して凌ぐこともあります。

術前に瞳孔不同が出ている場合は、危険な兆候(予後不良因子)です。

重症例の手術は、大開頭が基本です。

急性硬膜下血腫とは違い、硬膜切開までは行わない場合が多いです。(脳挫傷合併例などは別)


状態によっては、抜管せずに帰室するケースもあります。

術後にドレーンが入ってくるのが一般的です。ドレーンのタイプは病院により様々ですが、術直後は後出血を防ぐために、陰圧をかけるのが一般的です。

抗浮腫剤(グリセオール、マンニトール)を使うかどうかは、状況によります。

もう少し詳しい解説

  • 若年者に多く、ピークは10-20歳代で、転落や交通外傷が主因という報告があります。(*2)
  • 高齢者ではむしろ少ないです。(*3)

  • 高齢者の頭部外傷は、硬膜外よりも硬膜下に生じやすくなります。(頭蓋骨と硬膜の癒着が高度であり、硬膜下腔にも隙間が多くなるため)
  • 頭蓋骨骨折を伴うことが多いとされています。(*2)
  • そのため、多くが打撲側と同じ側に血腫を生じます。(=直撃損傷 coup injuryくーいんじゃりー
  • 抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)内服中の場合は、重症化しやすくなります。
頭蓋骨骨折を伴う急性硬膜外血腫の頭部単純CT画像
【右急性硬膜外血腫】右前頭骨の骨折があり、その直下に熱い急性硬膜外血腫を形成しています。
  • 教科書的には、二相性意識障害による意識清明期(lucid interval)が有名です。
  • 受傷直後は脳震盪による意識障害 → 一時的に回復 → 血腫による意識障害の進行、と言われています。
  • しかし脳挫傷やびまん性軸索損傷など、脳損傷を伴っている場合は、最初から意識が回復しないことも珍しくありません。

参考

  1. Cohenら : J Trauma 41 : 120, 1996
  2. Irieら : J Trauma71 : 847, 2011
  3. Le Rouxら : Br J Neurosurg 21 : 16, 2007

この記事を書いた人

地方中核病院の勤務医です。脳神経外科専門医を取得して十年ほど経過しました。
脳卒中や頭部外傷など、脳神経外科領域の一般的診療を主に行っています。

病状説明や学生講義で、どう話したら分かってもらえるかに苦心することが多く、「むずかしいことを、むずかしい言葉で説明しない」ことを目標にして書いています。

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