くも膜下出血(破裂脳動脈瘤)

SubArachnoid Hemorrhage (SAH)

Key Words
  • 脳卒中のひとつ
  • 突然発症する
  • クリッピング手術 / コイル塞栓術
  • タバコと高血圧が危険
目次

解説

脳を包む「くも膜」の下に、出血が拡がる病態を言います。

世間で言うところの、怖い病気としてのくも膜下出血は、原因のほとんどが、脳動脈瘤の破裂によるものです。

ここでは、一般によく知られている怖い病気としてのくも膜下出血(破裂脳動脈瘤)について述べます

外傷性くも膜下出血とは、予後も対応もまったく違います。

頭の中が血まみれになり、脳全体がつよく圧迫されて障害される病気です。

脳卒中(脳血管障害)のひとつで、約1割程度にあたります。

くも膜下出血(破裂脳動脈瘤)の単純CT画像
くも膜下出血(破裂脳動脈瘤)の単純CT画像の色付け
頭部単純CT:脳全体が白く、血腫で血まみれになっていることがわかります。典型的なSAHの画像です。(青で着色した部分が出血)

どんな病気?(破裂脳動脈瘤)

脳の動脈にできた瘤が、ある時とつぜん破れて、頭の中で大出血を起こす病気です。

脳が血まみれになり、脳全体がつよく圧迫される(=頭蓋内圧が亢進する)ことで、症状を起こします。

ほとんどが発症するまで無症状で、ある日ある時、突然症状が現れます。

前兆があるケースもありますが、まれです。

自然治癒は期待できず、外科的な治療が必要です。

1/3の方は治療までこぎつけられずに死亡、1/3の方は治療を受けて後遺症が残存、1/3の方は後遺症なく退院、という極端な『1/3病』でもあります。

くも膜下出血(破裂脳動脈瘤)の単純CTと3D-CTA画像
瘤の場所や大きさは様々。一般的には、瘤が大きく、形がいびつなほど、破裂率が高いといわれています。

症状

  • 突然の、激烈な頭痛と嘔気嘔吐で発症します。
  • 脳梗塞脳出血のような、麻痺や失語といった症状は伴わないことが多いです。
  • 重症例では、発症直後に昏睡~呼吸停止となる場合もあります。
  • 脳卒中の中では、最も心肺停止を起こす割合が高いとされています。(*7)

意識がある場合は、『人生最悪の頭痛』と表現されるほど、体験したことのないほどの激しい頭痛を訴えるのが典型的です。(雷鳴様頭痛という名前が付いています)

診断

頭部CTで、多くが診断可能です。

判断が難しい場合は、頭部MRIを追加することもあります。

SAHの診断が確定したら、3D-CTAや脳血管撮影を行い、出血源を特定する必要があります。

治療

くも膜下出血(破裂脳動脈瘤)には、怖い段階が複数あり、それぞれに対する治療が必要となります。

破裂脳動脈瘤の治療

破裂した瘤からの出血は、一時的にカサブタによって止まることがあります。しかしカサブタが剝がれて再出血(再破裂)した場合、発症時よりも更に重症化することが明らかとなっています。(*8)

破裂脳動脈瘤の自然治癒には期待ができず危険なため、再出血させなように、発症から72時間以内の外科手術が必要です。

通常は下記いずれかが選択されますが、どちらが優れているというものではなく、瘤の状態・場所・形、患者さんの年齢・合併症・全身状態などを総合的に考慮して、治療法を決定します。

  • クリッピング(開頭手術)
  • コイル塞栓術(血管内治療)
クリッピング術の術中顕微鏡画像
クリッピング
コイル塞栓術の脳血管撮影画像
コイル塞栓術

脳血管攣縮の治療

くも膜下出血には、発症後3日目頃から14日頃まで、脳血管攣縮期という怖い時期があります

脳の動脈が異常に縮んでしまい、脳に血が足りなくなって、脳梗塞を起こしてしまうことがあります(遅発性脳虚血)。くも膜下出血の約1/3に起こり、死亡や後遺症の原因となります。

これを起こさないように、あるいは起こしても最小限のダメージで乗り切れるようにするために、破裂脳動脈瘤の治療後も、集中治療が必要となります。


水頭症の治療

くも膜下出血を起こした方は、時間をおいてから、交通性水頭症という状態に陥ることがあります。

急激に状態が悪くなるわけではありませんが、自然回復が難しいと判断された場合は、シャント手術と呼ばれる治療が追加で必要となる場合もあります。

再発防止のために

脳動脈瘤がなぜできるか、についての結論は、まだ出ていません。

しかし過去に世界中で多数の報告や分析があり、くも膜下出血の発生に関与しているのは、「喫煙、高血圧、年齢」であると言われています。(*1,3)

自分でできる予防法として、禁煙と血圧管理が最も重要であることは、間違いないと言ってよいでしょう。

医療者向け

通称:えすえーえいち、ざー

重症度分類として、H&K分類、WFNS分類というものがあり、数字が大きいほど重症です。(1~5)

術前の重症度は、術後の予後と相関し、グレード4,5は予後不良となります。

術前

SAH発症後の再出血は絶対に避ける必要があります。病院到着後の再出血での死亡率は20~60%です。(*8)

再出血を起こさないために、術前は厳密な降圧管理と絶対安静が必要です。

たこつぼ型心筋症や肺水腫などの合併症を起こして呼吸・循環が不安定になることもあるため、密な観察が必要です。

厳密なバイタルチェックは必要ですが、術前に瞳孔観察や痛み刺激など、不要な刺激を与えるのは厳禁です。


術後

脳血管攣縮期(スパズム期)を、無事に乗り切ることが目標になります。

遅発性脳虚血を起こさないよう、血圧は高めに。

塩類喪失症候群(CSWS)による低Na血症にならないよう、塩分は多めに。

基本的には、「血圧高め、塩分多め」での管理を行います。

古い教科書には、3H療法と記載されていますが、高齢者にhyper volume(過量輸液)を行うと、高率に心不全を合併するため、近年はnormo volume(通常輸液)で行うことが多いです。予後改善に結びつかず、合併症が多かったというデータがあります。(*9)

交通性水頭症の合併があれば、持続腰椎ドレナージなどが行われる場合もあります。

もう少し詳しい解説

  • 高齢、高血圧、喫煙により、SAHの発症率は上昇します。(*1)
  • 日本未破裂脳動脈瘤悉皆調査(UCAS Japan)という、日本人を対象にした破裂率(=SAH発症率)を調べた統計データがあり、これによれば、日本人の未破裂脳動脈瘤の年間破裂率は0.95%でした。(*2)
  • 瘤の大きさや場所により、それぞれ危険度が違うことも示されています。(*2)

  • SAH発生の危険因子は、①喫煙、②高血圧、③多量飲酒とされています。(*3)
  • 激しい運動による急激な血圧上昇が、未破裂脳動脈瘤を破裂させる(=SAHを発症する)危険因子であると言われています。(*4)
  • SAHには家族歴があるとも言われており、血縁者にSAHを発症した方がいる場合は、発生率が高いというデータがあります。(*5)

  • 出血量の少ないminor leakは、単純CTで判断が難しい場合があります。
  • この場合は、MRI画像のFLAIR・T2*は、急性期・亜急性期のSAH検出に有効です。(*6)

参考

  1. Sundstromら : Int J Epidemiol 48 : 2018, 2019
  2. Moritaら : N Eng J Med 366 : 2474, 2012
  3. Feiginら : Stroke 36 : 2773, 2005
  4. Vlakら : J Neurol 259 : 1298, 2012
  5. Kubotaら : Br J Neurosurg 15 : 474, 2001
  6. Odaら : AJNR 36 : 1616, 2015
  7. Arnaoutら : Crit Care Med 43 : 453, 2015
  8. Larsenら : World Neurosurg 79 : 307, 2013
  9. Eggeら : Neurosurgery 49 : 593, 2001
ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村

この記事を書いた人

地方中核病院の勤務医です。脳神経外科専門医を取得して十年ほど経過しました。
脳卒中や頭部外傷など、脳神経外科領域の一般的診療を主に行っています。

病状説明や学生講義で、どう話したら分かってもらえるかに苦心することが多く、「むずかしいことを、むずかしい言葉で説明しない」ことを目標にして書いています。

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次