アテローム血栓性脳梗塞

AtheroThrombotic Brain Infarction (ATBI)

Key Words
  • 脳梗塞のタイプのひとつ
  • 突然発症する
  • 症状が進みやすい脳梗塞
  • タバコと生活習慣が危険
目次

解説

脳梗塞の型のひとつです。

脳の大きな血管が狭くなったり、詰まったりして、脳梗塞を起こす病気です。

症状が進行しやすく、また再発しやすいタイプの脳梗塞です。

アテローム血栓性脳梗塞のMRI画像(FLAIRとDWI)
ラクナ梗塞よりも大きく、広範囲になることが多いタイプの脳梗塞です。

どんな病気?

脳の大きな血管が、動脈硬化により狭くなり、脳の血流障害が起こる病気です。

大きな血管が原因なので、脳梗塞に陥る範囲も広く、階段状に症状が進行しやすくなります。

無症状で済むことは、ほとんどありません。ある日ある時、突然症状が出ます。

症状が出て検査を受けるケースが大半なので、無症状のまま経過することは、ほぼありません。

脳梗塞を起こした場所や大きさによって、症状はまちまちです。

動脈硬化が原因です。

症状

  • 運動を司る部位であれば、麻痺
  • 感覚を司る部位であれば、感覚障害
  • 脳幹や小脳であれば、失調(身体がうまく動かせない)
  • 空間を司る部位であれば、不注意(半側無視)
  • 痛みを伴うことはありません。

梗塞巣が広く、複数の場所にまたがることもあるため、これらの症状が同時に生じることもあります。

神経症状は重くなりがちですが、生命にかかわることは、多くありません。

診断

MRIによる拡散強調画像(DWI)が、最も有効です。

脳梗塞の発症直後は、CTで判断できません。

発症後1日ほど経過すれば、CTでも判断できるようになります。しかしCTで確実に見える場合は、すでに脳梗塞として完成してしまっている状況といえます。

治療

一般的治療と、超急性期治療が基本です。状態によっては、外科手術の適応となることがあります。

一般的治療

  • 脳保護薬による点滴治療

脳梗塞に陥った部分は回復できないため、脳梗塞が更に広がらないようにするための対応となります。

再発防止のために、血をサラサラにする薬を開始します。


超急性期治療

血栓溶解療法(rt-PA静注療法)の適応となる可能性があります。血栓回収療法の適応にはなりません。

血栓溶解療法はリスクを伴う治療のため、有効性と危険性を天秤にかけた上で、投与の適応があるかどうか検討されます。(*1,2)


外科手術

既に起こってしまった脳梗塞を回復させることはできませんが、脳梗塞を更に拡大させない、再発させないことを目的として、予防的治療として血行再建術といわれる外科手術の適応となる場合があります。

どの手術が適応となるかは、病態によって違います。

  • 頚動脈内膜剥離術(CEA)
  • 頚動脈ステント留置術(CAS)
  • 頭蓋内外血管吻合術(EC-IC bypass)

再発防止のために

血をサラサラにする薬(抗血小板薬)と、生活改善が主な予防法となります。

発症リスクを上げる生活上の要素としては、高血圧・糖尿病・脂質異常・喫煙などが挙げられます。

生活習慣の改善と、受動喫煙を含めた禁煙が、リスク低下につながります

高齢者の場合は、脱水もリスクとなるため、夏場や入浴などの際は、適度な水分補給が必要です。

看護師さん向け

通称:あてろーむ、えーてぃーびーあい

動脈硬化に由来する、大きめの脳梗塞です。


脳出血とは違い、急性期は基本的に降圧しない方がよいとされています。(脳卒中ガイドライン上の血圧管理上限は、220/120mmHg未満)(*8)

通常、脳保護薬(エダラボン)と抗血小板薬が用いられます。

抗血小板薬は複数を内服する場合があります。

抗血小板薬は、(他の理由で処方されている)抗凝固薬と、併用される場合もあります。

脳梗塞の予防効果は上がりますが、血が止まりにくくなるため、転倒やケガには注意が必要です。予定手術が組まれた場合は、どの薬をいつから休薬するのか、必ず確認が必要です。

抗血小板薬・・・アスピリン、シロスタゾール、クロピドグレル、プラスグレル


発生機序で考えた場合、アテローム血栓性脳梗塞の場合は、血栓性・塞栓性・血行力学性のいずれも起こりえます。

  • 動脈硬化により、複数の分岐血管(穿通枝)の血流障害が起こる(=血栓性)→BAD
  • プラークと呼ばれる、血管にできたヘドロのようなゴミが、ちぎれて飛んでいくことで、先にある脳の血管を詰めてしまうことで脳梗塞が起こる(=塞栓性)→AtoA
  • 脳の大きな血管が、動脈硬化により狭くなることで、脳の血流障害が起こる(=血行力学性)→頚動脈高度狭窄

もう少し詳しい解説

  • 片方の内頚動脈が閉塞しても、ウィリス動脈輪を介する側副血行が十分に発達していれば、脳灌流圧の低下は起きません。
  • 狭窄であっても、内腔が70%以上減少しなければ、脳血流量は変化しません。
  • 高度狭窄であっても、側副血行が十分であれば、神経症状や梗塞なく、無症状で経過することもあります。

  • 高血圧が脳卒中の危険因子であり、通常であれば降圧管理が脳卒中リスクを下げるのは確かです。(*3)
  • しかし主幹動脈に高度狭窄や閉塞があり、脳灌流圧が低下している場合の至適血圧については諸説あり、一定の見解が得られていません。(*4,5)

  • 虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)の患者では、頚動脈や頭蓋内動脈の狭窄病変の合併が多いことが知られています。(*6)
  • これらは、全身動脈硬化病変の一表現型と考える必要があります。
  • 日本の大規模調査で、脳卒中患者の2.6%が心筋梗塞を、心筋梗塞患者の6.6%が脳梗塞の既往があったことが判明しています。(*7)
  • 頚動脈や頭蓋内動脈の血管病変に対して外科治療を行う場合、事前に心機能のスクリーニングは必ず行うべきです。

参考

  1. Glennら : Stroke 34 : 2847-2850, 2003
  2. Nezuら : Neurology 75 : 555, 2010
  3. Lakhanら : Int Arch Med 2 : 30, 2009
  4. Powersら : Neurology 82 : 1027, 2014
  5. Yamaguchiら : Stroke 46 : 265, 2015
  6. Ueharaら : Stroke 27 : 393, 1996
  7. Uchiyamaら : J Stroke Cerebrovasc Dis 19 : 190, 2010
  8. 脳卒中ガイドライン2021
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この記事を書いた人

地方中核病院の勤務医です。脳神経外科専門医を取得して十年ほど経過しました。
脳卒中や頭部外傷など、脳神経外科領域の一般的診療を主に行っています。

病状説明や学生講義で、どう話したら分かってもらえるかに苦心することが多く、「むずかしいことを、むずかしい言葉で説明しない」ことを目標にして書いています。

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