くも膜下出血(破裂脳動脈瘤)とは?怖い病気として有名な「くもまくか」について、脳外科専門医が解説

SubArachnoid Hemorrhage (SAH) 【医師解説】くも膜下出血とは?症状や治療法について分かりやすく解説

Key Words
  • 脳卒中のひとつ
  • 突然発症する
  • クリッピング手術 / コイル塞栓術
  • タバコと高血圧が危険

この記事は、くも膜下出血について知りたい一般の方向けに書かれています。後半に、医療従事者向けの少し詳しい内容が書かれています。

この記事は、こんな方向け!
  • 突然の、これまで体験したことのないような、激しい頭痛を感じた!
  • 家族に「くも膜下出血」にかかった人が多くて、どんな病気か心配・・・。
目次

くも膜下出血の症状と原因

脳を包む「くも膜」の下に、出血が拡がる病態を言います。

世間で言うところの、怖い病気としてのくも膜下出血は、原因のほとんどが、脳動脈瘤の破裂によるものです。

ここでは、一般によく知られている怖い病気としてのくも膜下出血(破裂脳動脈瘤)について述べます

外傷性くも膜下出血とは、予後も対応もまったく違います。

頭の中が血まみれになり、脳全体がつよく圧迫されて障害される病気です。

脳卒中(脳血管障害)のひとつで、約1割程度にあたります。

くも膜下出血(破裂脳動脈瘤)の単純CT画像。白い出血が脳表で広範囲に認められている様子。
頭部単純CT:脳の表面全体が白くなっている、典型的なSAHの画像です。(著者執刀症例より)
くも膜下出血(破裂脳動脈瘤)の単純CT画像。出血部分を分かりやすく色付けした画像。
頭部単純CT:上のCT画像で、出血部分を青で着色したもの。(著者執刀症例より)

どんな病気?(破裂脳動脈瘤)

脳の動脈にできた瘤が、ある時とつぜん破れて、頭の中で大出血を起こす病気です。

脳が血まみれになり、脳全体がつよく圧迫される(=頭蓋内圧が亢進する)ことで、症状を起こします。

ほとんどが発症するまで無症状で、ある日ある時、突然症状が現れます。

前兆があるケースもありますが、まれです。

自然治癒は期待できず、外科的な治療が必要です。

1/3の方は治療までこぎつけられずに死亡、1/3の方は治療を受けて後遺症が残存、1/3の方は後遺症なく退院、という極端な『1/3病』でもあります。

くも膜下出血(破裂脳動脈瘤)の単純CTと3D-CTA画像。脳の大きな血管にできた瘤(脳動脈瘤)からの出血であることが分かる画像。
【くも膜下出血・破裂前交通動脈瘤】瘤の場所や大きさは様々。一般的には、瘤が大きく、形がいびつなほど、破裂率が高いといわれています。(著者執刀症例より)

症状(こんな症状があったら!?)

  • 突然の、激烈な頭痛と嘔気嘔吐で発症します。
  • 脳梗塞脳出血のような、麻痺や失語といった症状は伴わないことが多いです。
  • 重症例では、発症直後に昏睡~呼吸停止となる場合もあります。
  • 脳卒中の中では、最も心肺停止を起こす割合が高いとされています。(*7)

意識がある場合は、『人生最悪の頭痛』と表現されるほど、体験したことのないほどの激しい頭痛を訴えるのが典型的です。(雷鳴様頭痛という名前が付いています)

もしも、あなたが・・・

「突然の」「人生最悪な」「バットで殴られたような」激しい頭痛を感じたら、絶対に我慢したり様子を見たりせず、ためらわずに救急車を呼んでください!

診断方法(どうやって見つける?)

頭部CTで、多くが診断可能です。

判断が難しい場合は、頭部MRIを追加することもあります。

SAHの診断が確定したら、3D-CTAや脳血管撮影を行い、出血源を特定する必要があります。

治療方法(手術が必要!)

くも膜下出血(破裂脳動脈瘤)には、怖い段階が複数あり、それぞれに対する治療が必要となります。

破裂脳動脈瘤の治療

破裂した瘤からの出血は、一時的にカサブタによって止まることがあります。しかしカサブタが剝がれて再出血(再破裂)した場合、発症時よりも更に重症化することが明らかとなっています。(*8)

破裂脳動脈瘤の自然治癒には期待ができず危険なため、再出血させなように、発症から72時間以内の外科手術が必要です。

通常は下記いずれかが選択されますが、どちらが優れているというものではなく、瘤の状態・場所・形、患者さんの年齢・合併症・全身状態などを総合的に考慮して、治療法を決定します。

  • クリッピング(開頭手術)
  • コイル塞栓術(血管内治療)
くも膜下出血(破裂脳動脈瘤)の手術。クリッピング術の術中顕微鏡画像。
【クリッピング】脳動脈瘤の根っこをクリップでつまんで、再破裂を防ぎます。(著者執刀症例より)
くも膜下出血(破裂脳動脈瘤)の手術。コイル塞栓術の脳血管撮影画像。
【コイル塞栓術】脳動脈瘤の内部にプラチナコイルを充填して、再破裂を防ぎます。(著者担当症例より)

脳血管攣縮の治療

くも膜下出血には、発症後3日目頃から14日頃まで、脳血管攣縮期という怖い時期があります

脳の動脈が異常に縮んでしまい、脳に血が足りなくなって、脳梗塞を起こしてしまうことがあります(遅発性脳虚血)。くも膜下出血の約1/3に起こり、死亡や後遺症の原因となります。

これを起こさないように、あるいは起こしても最小限のダメージで乗り切れるようにするために、破裂脳動脈瘤の治療後も、集中治療が必要となります。


水頭症の治療

くも膜下出血を起こした方は、時間をおいてから、交通性水頭症という状態に陥ることがあります。

急激に状態が悪くなるわけではありませんが、自然回復が難しいと判断された場合は、シャント手術と呼ばれる治療が追加で必要となる場合もあります。

発症しないために(どうすれば予防できる!?)

脳動脈瘤がなぜできるか、についての結論は、まだ出ていません。

しかし過去に世界中で多数の報告や分析があり、くも膜下出血の発生に関与しているのは、「喫煙、高血圧、年齢」であると言われています。(*1,3)

自分でできる予防法として、禁煙と血圧管理が最も重要であることは、間違いないと言ってよいでしょう。

医療者向け(看護師さん、コメディカルさん向け)

通称:えすえーえいち、ざー

重症度分類として、H&K分類、WFNS分類というものがあり、数字が大きいほど重症です。(1~5)

術前の重症度は、術後の予後と相関し、グレード4,5は予後不良となります。

術前

SAH発症後の再出血は絶対に避ける必要があります。病院到着後の再出血での死亡率は20~60%です。(*8)

再出血を起こさないために、術前は厳密な降圧管理と絶対安静が必要です。

たこつぼ型心筋症や肺水腫などの合併症を起こして呼吸・循環が不安定になることもあるため、密な観察が必要です。

厳密なバイタルチェックは必要ですが、術前に瞳孔観察や痛み刺激など、不要な刺激を与えるのは厳禁です。


術後

脳血管攣縮期(スパズム期)を、無事に乗り切ることが目標になります。

遅発性脳虚血を起こさないよう、血圧は高めに。

塩類喪失症候群(CSWS)による低Na血症にならないよう、塩分は多めに。

基本的には、「血圧高め、塩分多め」での管理を行います。

古い教科書には、3H療法と記載されていますが、高齢者にhyper volume(過量輸液)を行うと、高率に心不全を合併するため、近年はnormo volume(通常輸液)で行うことが多いです。予後改善に結びつかず、合併症が多かったというデータがあります。(*9)

交通性水頭症の合併があれば、持続腰椎ドレナージなどが行われる場合もあります。

もう少し詳しい解説(研修医向け)

  • 高齢、高血圧、喫煙により、SAHの発症率は上昇します。(*1)
  • 日本未破裂脳動脈瘤悉皆調査(UCAS Japan)という、日本人を対象にした破裂率(=SAH発症率)を調べた統計データがあり、これによれば、日本人の未破裂脳動脈瘤の年間破裂率は0.95%でした。(*2)
  • 瘤の大きさや場所により、それぞれ危険度が違うことも示されています。(*2)

  • SAH発生の危険因子は、①喫煙、②高血圧、③多量飲酒とされています。(*3)
  • 激しい運動による急激な血圧上昇が、未破裂脳動脈瘤を破裂させる(=SAHを発症する)危険因子であると言われています。(*4)
  • SAHには家族歴があるとも言われており、血縁者にSAHを発症した方がいる場合は、発生率が高いというデータがあります。(*5)

  • 出血量の少ないminor leakは、単純CTで判断が難しい場合があります。
  • この場合は、MRI画像のFLAIR・T2*は、急性期・亜急性期のSAH検出に有効です。(*6)

参考

  1. Sundstromら : Int J Epidemiol 48 : 2018, 2019
  2. Moritaら : N Eng J Med 366 : 2474, 2012
  3. Feiginら : Stroke 36 : 2773, 2005
  4. Vlakら : J Neurol 259 : 1298, 2012
  5. Kubotaら : Br J Neurosurg 15 : 474, 2001
  6. Odaら : AJNR 36 : 1616, 2015
  7. Arnaoutら : Crit Care Med 43 : 453, 2015
  8. Larsenら : World Neurosurg 79 : 307, 2013
  9. Eggeら : Neurosurgery 49 : 593, 2001
この記事のまとめ
  • くも膜下出血は、脳卒中のひとつで、大半が「脳動脈瘤の破裂」で起こる
  • 発症時の頭痛は、「人生最大の頭痛(=雷鳴様頭痛)」と表現されることが多い
  • 予防のためには、禁煙と高血圧の管理が何よりも重要!
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この記事を書いた人

地方中核病院の勤務医です。脳神経外科専門医を取得して十年ほど経過しました。
脳卒中や頭部外傷など、脳神経外科領域の一般的診療を主に行っています。

病状説明や学生講義で、どう話したら分かってもらえるかに苦心することが多く、「むずかしいことを、むずかしい言葉で説明しない」ことを目標にして書いています。

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